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メルランは見た!(前)

長いので分けました。
プチに投稿した作品です。
後編は明日更新します。
それでは。



メルラン・プリズムリバーの朝は早い。
なぜなら、彼女は基本的にプリズムリバー家の朝食を担当しているからだ。
そもそも幽霊に御飯が必要なのかというツッコミは、まず白玉楼の主に直接言ってもらいたい。
それが彼女たち幽霊の暗黙のルールだ。
話が脱線してしまったが、彼女たちは特に意図して当番が決めたというわけではない。
彼女の姉であるルナサ・プリズムリバーは朝に弱いという欠点を持ち、妹のリリカ・プリズムリバーはいたずらが過ぎるという欠点がある。
一度だけリリカに朝食を任せたことがあったが、それはそれは大変な惨事が起きたという話はまた別のお話である。
そういった過程を経て、朝だけは自分がやらなければならないという自覚を持ったのがメルランだった。
もっとも、その他の炊事はほとんどがルナサの担当なのだが。
朝食を作り終えてから、姉妹を起こすまでがメルランの朝の仕事なのだ。
今日もまた、いつものように朝食を作り終えたメルランはリリカを起こした。
そしてメルランは、姉を起こすために部屋へと向かう。

コンコン。

「姉さーん、朝だよー。起きてるー?」

比較的大きな声で呼びかけるが、この程度で起きる姉なら苦労はしていない。
もともとテンションが低いルナサだが、最も低いのがこの時である。
もっともメルランにとっては、この程度で起きてもらっては困るのだ。
案の定、ルナサからは何の返答もなかった。
仕方ない、というよりもむしろ嬉々とした表情でメルランは部屋に入る。



ルナサの部屋はとても簡素なものだ。
彼女自身が物を置く事を好まないためだろう。
対照的にリリカの部屋は乱雑としているのだが、このあたりは姉妹でも異なる点だ。
メルランはベッドの方に目を向ける。
ベッドの上ではルナサ…だと思われる物体が毛布にくるまっている。
なんということなの!? これじゃあ姉さんの寝顔が見れない……
落胆の表情を浮かべるメルラン。
しかしメルランは諦めない。
見えないのなら、自分から見に行けばいいのだ。
まさに発想の逆転ね……今日は冴えてるわ、とメルランは思った。
そして実行に移すために、ベッドの傍へと移動する。
その流れで毛布に手をかけて、一気に引っ張る。
しかし、

「―――って、力強っ!!」

どれだけ引っ張っても、毛布はルナサから離れなかった。
おそらくルナサは無意識に毛布を守ろうとしているのだろうが、普段のルナサからは考えもつかないほどの力がかかっている。
メルランが毛布と格闘すること数分、ルナサに動きが見られた。
初めはもぞもぞと動くだけだったが、やがて動きが大きくなる。
そして、ルナサは毛布に掛けていた力を弱める。
ルナサが起きそうなことに気づいたメルランは、慌てて毛布から手を離そうとするが、そのままルナサから毛布を奪う形となる。
毛布を取られたルナサは、虚ろな目でメルランの姿を確認すると、ゆっくり起き上がり、伸びをする。

「~~~っ……メルランおはよう」
「……おはよう姉さん」
「……何やってるの?」
「姉さんを起こしに来たんだよ……」
「……そう」

本当はそれだけではないのだが、自らの保身のためにも嘘をつく。
ここでいらぬ誤解を抱かれてしまえば、明日からの楽しみが一つ減ってしまうことになる。
ルナサは寝起きの所為もあるのか、そんなメルランの様子に気付くことはない。
時々あー、とか、うー、とか唸るルナサの様子を微笑みながら、内心、鼻血が出そうなのを堪えつつ、見守るメルラン。
カメラを持ってくればよかった……と今更ながら後悔する。
ルナサには内緒だが、メルランの部屋には「ルナサ寝起きアルバム」が存在する。
メルランがこつこつ頑張って撮影してきたお宝だ。
きっと今写真を撮っておけば、トップ5に入るほどのものになっていただろう。
後悔の念に駆られているメルラン。
そんなメルランに対して、ルナサは両腕を彼女の方に伸ばして、

「……んー」
「なぁに?姉さん」
「……運んで」
「―――っ!!!」
「……眠い」

あまりの眠さに動くことすら億劫なのだろう。
突然のルナサのお願いに固まるメルラン。
まさかのイベント発生である。
どうすればいいのかしら……?
メルランは即座に脳内会議を開いた。

1.メルランは空気が読める娘、きちんと姉さんをお運びします。
2.運ぶと見せかけてやっぱり押し倒せ☆
3.いただきます。

当然3、倍プッシュだ……!
思いついた選択肢の中から当然のように3番を選ぶメルラン。
ぶっちゃけ2と3の違いなんてないだろう、なんて無粋なツッコミはいらない。
逆に空気を読む、それがメルランの能力だったような気がしなくもない……
そうと決まれば早速行動開始。
メルランはルナサの腕をホールド、その流れでベッドに押し倒す。

「……んぁ?」
「あー、ごめんなさい姉さん、足が滑っちゃったー(棒読み)」

思考がまともに働いていないルナサ。
今のルナサは何が起こったのかも理解できていないのかもしれない。
だがメルランは手を抜かない。
絶対にやってはいけない禁じ手(寝起きを襲う)だが、
この溢れ出すハートの衝動を止めることは誰にもできない。
メルランはただ、本能に従っているだけなのだ。
そして、メルランの手がルナサの服にかかり―――

「……何やってるの、メル姉?」

入口から聞こえたのはリリカの声。
朝食を待っていたのに戻ってこない二人の姉の様子を見に来たのだ。
そして彼女が、目の前で繰り広げられている光景に口出ししないわけがない。
……本当は、少し前から見ていたのだが。
そしてリリカの声で完全に目が覚めるルナサ。
彼女は目の前のメルランと、自分の状況を確認すると、

「……何やってるの、メルラン?」
「あはは、足が滑って……」
「そう、それなら仕方がない……とでも言うと思ったの!?」
「ひぃぃぃぃいいい!! ごめんなさーい!!!」

ワーワーと言い争いになる二人の姉を見て、
リリカはそっと食卓へと戻るのだった。





朝食後、プリズムリバー家では与えられた家事を終えた者から、
それぞれの時間に入ることになっている。
メルランは後片付け、ルナサは洗濯、リリカは誰かの手伝いといった具合である。
本来ならばリリカも何かを一人でやるべきなのだろうが、基本的にリリカに甘いルナサがそれを認めなかったのだ。
そしてルナサに甘いメルランとしても、ルナサが決めたことならと思ってしまい、正面から反論することができない。
だが、流石にそれはリリカの為にならないとルナサと二人で話し合ったところ、リリカは誰かの手伝いをすること、と決められたのだ。
メルランとしては、負担を軽くすることが目的であったため、まあ、それでもいいかな、納得したのだった。
しかし、ここでメルランの想定外の事態が発生した。
そもそも、ルナサ大好きなリリカがメルランを手伝うのか、ということに気づいていなかった。
気付いた時には遅く、リリカはルナサの手伝いしかしておらず、メルランの仕事量はそのまま、という結果になってしまった。
そして、そのことでメルランが何も言わないはずがなく、リリカに不満をぶつけたのだ。

「私が姉さんを手伝うんだから、リリカは何もしなくていい!!」
「そっち!?」

ともかく、リリカとしては思ってもいない幸運が訪れたのだ。
この話に乗らないわけがない。
リリカは姉の頭の中を心配しつつ代わってあげることにした。
メルランが自分の過ちに気付いたのは、それから1週間たってからであり、
その時になってようやく、あれ、騙されてないかな、と思ったのだった。
まさか妹に嵌められるなんて……
妹の策略にメルランは戦慄し、その行く末に恐怖した。
ただし、メルランの自業自得であることは言うまでも無い。
しかも、ルナサがメルランに何か手伝わせるようなことはなく、むしろ他の仕事をしてくれ、と言われたのだった。
結局、リリカは誰かを手伝うこと、という最初の決まりに従ってそれぞれが役割を果たすこととなった。
そして、今日はリリカにしては珍しくメルランの手伝いをしている。
食器を洗うメルランと、それを拭くリリカ。
単純な作業に時間はあっという間に過ぎていく。
作業も終盤というところにきて、メルランはある疑問をぶつけた。

「……何でリリカが私を手伝ってるの?」
「いやー、たまにはいいじゃん」
「……はっ!? お小遣いはあげないわよ!!」
「……どうしてそうやって疑うのかな?」

おかしい……リリカが何の見返りもなく私を手伝うことなんてありえない。
何か裏があるのでは、と読んだメルランだったが、疑いの眼差しを受けるリリカとしては面白くない。
疑問を払拭するために、リリカは口を開いた。

「メル姉に相談しようと思ってさ……ルナ姉について」
「……姉さんの!?」

メルランの表情が明らかに変わった。
それを確認したリリカは続ける。

「最近さ……ルナ姉の様子がちょっとおかしいと思うんだよ」
「そう……かしら?」
「絶対そうだよ! この前も鼻歌歌いながらお風呂に入ってたもん!」
「……お風呂? まさかリリカ、まだ姉さんと一緒にお風呂入ってるの!?」

なんて羨ましい、と言いながら、メルランはリリカに詰め寄る。
リリカは慌ててメルランの突進を押し止める。
鬼のような形相のメルランに、恐怖からかリリカは泣きたくなった。

「ちっ、違うよ、入ってないよ! あと、それはどうでもいいよ!」
「どうでもいい……? どうでもいいわけないでしょうが、見たの? 見たのね姉さんの―――!」
「論点そこじゃないよ!」

ヒートアップする2人。
本来ならばストッパーであるルナサが止めるべきなのだが、
彼女は今、洗濯物を干すために外に出ている。
言い争いは2人が疲れるまで続く。


しばらくして、疲れが見え始めたリリカは、

「ぜぇ…はぁ…もう…話を、戻すよ…」
「そ…うね……疲れた…わ」

一時、呼吸を整える。
ある程度落ち着いたのか、2人は再び話し合う。

「……で、何の話だったっけ?」
「……ルナ姉の様子がおかしいって話だよっ!」
「急に大声出さないでよ、ビックリしたじゃない……カルシウム足りてないのかしら?」
「怒るよ……メル姉は気付かなかったの?」
「そうは言っても……そうだったかしらね……?」

メルランは最近のルナサのことを思い起こす。
確かに、リリカの言う通り姉さんは最近少しテンションが高かったかもしれないわね……
いつもの姉さんはもちろんのことだけど、テンションの高い姉さんもいいわ……

「姉さんは可愛い!!!」
「……なんでそうなるの!?」
「でも、リリカの言う通り姉さんにしては少しおかしいかもしれないわね……」
「そうだよ。ルナ姉……何かあったのかな?」
「何かって……何が?」
「それは……ん~、例えば……」

リリカは考える。
そういえば、今の姉さんのような状況をどこかで見たことがあった気が……
あれは確か―――そう、てゐから借りた漫画で見たような……
ああ、そうだ、

「姉さんはヒロインなんだよ!」
「……はぁ?」
「だから姉さんは漫画のヒロインと一緒なの!」
「ごめん、さっぱり言ってる意味が理解できないわ」
「だから、姉さんは漫画のヒロインみたいな状態なんだよ」
「……どういう状況?」
「えっとね、その漫画のヒロインは主人公に恋をしてるんだよ、つまりルナ姉は誰かに恋しているんだよ」
「……コイ?」
「うん、きっとそうだよ。この前読んだ漫画みたい…だ、よ……?」

リリカは周囲の温度が急速に下がっていくのを感じた。
思わず言葉が尻すぼみになるほどだ。
その原因はおそらく、目の前にいる……

「ねぇリリカ……?」
「な、何っ!?」
「誰が……誰がどうしたって言ったの?」

にこにこと微笑みながら語りかけるメルラン。
しかし、明らかに目が笑っていない。
リリカは取り返しのつかない過ちを犯したことを悟った。

「そ、それは……ね…」
「今、お姉ちゃんちょっと聞き間違えをしちゃったみたいなの…お願いもう一回言って?」
「そ、それは、だから……ルナ姉が……」
「……姉さんが、何?」

これ以上口を開けば……
リリカの脳裏にある考えがよぎり、そして恐怖する。
唇が乾き、声が掠れる。
こんなにも怖いメル姉を見たのは何時ぶりだっけ……?
前回は確か、ルナ姉のファンが、ルナ姉にファンレターを超えたラブレターのようなものを渡した時だったはず。
ルナ姉がメル姉に、どうやって断ったらいいのか相談したらしく、メル姉が代わりに断ってくる、って言って……
その相手を……(倫理的問題に配慮しております)したとき以来のはず……
私も、あの時と同じように……
リリカがメルランの放つプレッシャーに恐怖し、ガタガタ震え始めた時だった。

「……どうかしたのか?」

不穏な空気を感じ取ったルナサが現れた。
ルナサの登場に思わず抱きつこうとするリリカだったが、

「ううん、何でもないわ姉さん。ちょっとリリカの相談に乗ってあげてただけよ」

そう言ってメルランは、リリカの肩に手を回す。
掴まれたリリカの肩はミシミシと音を立てるが、リリカはそれに反応することを許されない。
そんな2人のやり取りの真意に気付く事のないルナサは、

「それならいいんだけど……私はこれから出かけるから後は任せたよ」
「ええ、行ってらっしゃい姉さん」
「……いってらっしゃい」

玄関までルナサを見送る2人。
ルナサが出て行くのを確認すると、

「……危ないところだったわね」
「……死ぬかと思った」
「大袈裟ねー、ばれたぐらいで死にはしないし、私たちは元々死んでるわよ」
「メル姉に殺されると思ったんだよ!!」
「……気のせいよ」

嘘だ、絶対本気だったよ。
と思いはすれど、口には出さない、リリカだって命?は惜しいのだ。
リリカが生きることの実感を味わっていると、
メルランが思いついたように言った。

「……そうだ、姉さんを尾行すればいいじゃない!!」
「……はぁ? 頭、大丈夫?」
「至って大丈夫よ。ともかく、姉さんが気になるなら自分で調べればいいのよ」
「まぁ一理あるけど……ばれたらルナ姉が絶対に怒るよ」
「気づかれなければ問題ないわ。それに私がそんなヘマすると思ってるの?」

確かにメル姉に限って、尾行してばれるなんてミスを犯すはずはない。
でも、もし私の言った通りのことがあったとして、現場を目撃してしまったら……
前回のこともある。絶対に飛び出して行って、相手を(倫理的問題)する、間違いない。
でもここで止めよう、と言って聞く相手でもないし……
今のメル姉は、額に「米」が書いてある人でも絶対に止められないよ……
だから私は、

「……うん、がんばってね」

と言って逃げ出そうとするリリカ。
しかし、メルランはリリカを逃そうとはしなかった。

「……どうして他人事みたいな言い方するの?」
「私が行くと、メル姉の足手まといになるから、ここで待ってるよ」
「却下します」
「いやいや、私は報告を待つよ。うん、別に行きたくないからじゃないよ、メル姉のことを思って」
「じゃあ、一緒に行きましょう……もしかして、嫌なのかしら?」

また、あの微笑だ。
リリカは背筋が凍りつくのを悟った。
そして、気づいた時には頭を上下に振っていたのだった。

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